「鳥愛(Tori-Ai)」というイベントを決断した理由②
前回の振り返り
前回は、「日本がなぜ“ペット後進国”と呼ばれてしまうのか」という問いを投げかけました。
その背景には、生体販売の仕組みそのものがある――。
今回は、その仕組みに潜む 10のリスク を整理し、鳥たちと飼い主、そして社会にどんな影響を及ぼしているのかを一緒に見つめていきたいと思います。
リスク①~③:鳥の命と健康に関わるリスク
リスク①:過剰繁殖による親鳥・雛への過大な負担
需要に応えるために無理な繁殖が繰り返され、親鳥が休む間もなく雛を育て続ける現実があります。
その結果、親鳥は体力を消耗し、寿命を縮めてしまうこともあります。
雛もまた、早期に親から離されることで、本来の発達に必要な時間を奪われてしまいます。
本来なら親鳥と過ごすことで学ぶ「安心感」や「群れの中での振る舞い」を身につける前に人間の手に渡ってしまうため、情緒が安定せず、次のような行動に現れることがあります。
- 分離不安:飼い主がいないと落ち着かず、不安で鳴き続ける
- 呼び鳴き:過剰に声を張り上げ、四六時中鳴き続ける
- 毛引き:自分の羽を抜く、かじるといった自傷行為
- 過発情:季節や状況に関わらず発情を繰り返し、体調や精神に負担をかける
こうした問題行動の背景には、単なる「しつけ不足」ではなく、雛の発達段階を無視した繁殖・販売の仕組みがあるのです。
リスク②:感染症や遺伝疾患を抱えたまま流通するリスク
市場に出る前に適切な検査や隔離が行われない場合、鳥は病気を抱えたまま店頭に並びます。
感染症は目に見えにくいため、飼い主が迎えた直後に体調を崩すことも珍しくありません。
- 親から子への垂直感染:親鳥が感染していれば、雛にそのまま受け継がれます。
- 流通過程での水平感染:問屋やショップで多くの鳥と接触することで、新たに病気をもらうことがあります。
結果として、飼い主は「迎えたその日から病院通い」という事態に直面します。
これは金銭的な負担だけでなく、飼い主の心にも深い不安と罪悪感を残します。
リスク③:不適切な環境での飼育・輸送
小さな箱に詰められ、暗い倉庫や長距離輸送を繰り返される――。
そのストレスは免疫力を低下させ、呼吸器疾患や消化器トラブルを引き起こします。
見た目には「元気そう」に見えても、
- 羽毛が乱れている
- 食欲が安定しない
- 人間に対して過敏に反応する
といったサインを抱えたまま店頭に並んでいることもあります。
飼い主は「自分の育て方が悪いのでは?」と悩みますが、実際は迎える前の環境が原因である場合も少なくありません。
リスク④:予想外の医療費や飼育負担
「小鳥だから犬猫より楽に飼える」と思っていたら、実際は違った――。
例えば、感染症の治療や長期投薬が必要になると、毎月数万円単位の医療費がかかることもあります。
さらに、日々の掃除・温度管理・食事の準備など、時間的な負担も軽くありません。
想像と現実のギャップに苦しむ飼い主は少なくないのです。
リスク⑤:性格や種類の特性を知らずに迎えるリスク
「しゃべる鳥が欲しい」「見た目がきれいだから」といった理由で迎えると、思わぬ現実に直面することがあります。
- 鳴き声の大きさに近隣トラブルへ
- 強い噛み癖で家族がケガをする
- 意外と活発で手に余る
種類、年齢、雌雄、性格ごとに行動特性や感情表現は異なります。
それを理解せずに迎えると、鳥も飼い主もお互いに苦しくなるのです。
リスク⑥:手放さざるを得なくなるケース
飼い主自身の生活の変化(転勤、出産、介護など)に加え、想定以上の負担から「もう育てられない」となる飼い主もいます。
手放す選択をした飼い主は、強い罪悪感に苦しみ、残された鳥もまた大きなストレスを抱えます。
「愛情が足りなかったのでは?」と自分を責める声を、私は多く聞いてきました。
リスク⑦:捨て鳥・保護鳥の増加
迎えられた鳥のすべてが最期まで飼い主と暮らせるわけではありません。
その一部は「捨て鳥」となり、公園や街中で生きることを強いられます。
また、保護団体が引き取る数も年々増加しており、収容スペースや医療費の限界を超えてしまうケースもあります。
結果として「救えない命」が生まれてしまうのです。
リスク⑧:鳥を“商品”とみなす価値観の固定化
店頭に並ぶ鳥たちは「値札」がついた存在です。
この環境が当たり前になると、鳥を命ではなく「商品」として見る価値観が社会に根づいてしまいます。
その結果、
- 「売れ残ったら安くなるのでは?」
- 「珍しい鳥は高額で取引される」
といった、命よりも価格に重きを置く風潮が強まります。
リスク⑨:教育機会の喪失
子どもたちが「動物とどう関わるか」を学ぶ貴重なチャンスが奪われています。
ガラスケース越しに並ぶ姿だけでは、本当の鳥の生態や感情を知ることはできません。
本来なら、鳥がどんな環境で安心するのか、どうすれば信頼関係を築けるのかを体験から学ぶことが必要です。
しかし今の仕組みでは、それが難しいまま大人になる子どもたちが増えています。
リスク⑩:国際的な評価の低下
ヨーロッパでは「動物福祉」に関する基準が厳しく、ブリーダーや販売方法にも透明性が求められます。
それに比べて、日本は依然として「店頭販売」が主流。
海外からは「日本は動物福祉の後進国」と見られ続けています。
これは観光や文化交流、さらには国全体の信頼性にも影響する問題なのです。
まとめ
こうして一つひとつのリスクを掘り下げると、被害を受けるのは鳥だけではなく、飼い主、社会全体に広がっていることが分かります。
- 鳥 → 健康や精神面に深刻な影響
- 飼い主 → 経済的・精神的な負担
- 社会 → 保護の限界、教育の欠如、国際的信用の低下
「生体販売の仕組み」は単なる“買い方の違い”ではなく、社会構造にまで影響を及ぼす問題なのです。
→ 第3回に続きます